こんにちは。やーみんです。
今回はいつもと趣向を少し変えて、9割ノンフィクションのちょっとした小噺を書いてみたいと思います。
『ばあちゃんプログラミング大作戦』
2020年にプログラミング教育が小学校で必修化された。
目的はプログラミングができる人材の育成ではなく、「プログラミング的思考」を育成することらしい。
「プログラミング的思考」は、文部科学省が出している「学習指導要領解説」で「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」と説明されている。
少し難しい説明だが、簡単に言うと「目的を達成するための行動を小さな要素に分けて、どのような順番で実行したら、達成できるかを考えていく力」となる。
簡単にも思えるが考えてみればなかなか難しいことかもしれない。私は昔あったある出来事を思い出した。
私が学生だった、ある日のこと。
その日、私は夕方に放送される、某国民的アニメの特番を録画するつもりだった。前々から楽しみにしていたのだ。
だけど、その日に限って、うっかり録画予約するのを忘れた。
気付いたのは大学で、家までは車で40分かかった。
授業が終わり、すぐ家に向おうとしたが、番組開始までは20分。どう考えても間に合わない。
家族に連絡して、録画してもらおうと思ったが、その日は家に機械が苦手なばあちゃんしかいなかった。
切羽詰まった私はいちかばちか、電話でばあちゃんに操作方法を伝えて、録画してもらおうと思い立った。
携帯から自宅へ電話した。当然だが、ばあちゃんが出た。
「今から僕の言う通りにリモコンを操作して、番組を録画して!」
「ばあちゃんは英語も読めんし、わからんばい!」
ばあちゃんは80歳。英語がというかアルファベットがそもそもわからない。かろうじて読めるのは「NHK」と「BS」。なぜなら相撲と野球が好きでそれを見るために覚えたからだ。だが、それも「NHK」を「えねえちけー」というかたまりとして覚えている可能性が高い。英語で説明することは出来ない。
「いいから、僕が言う通りにしたら大丈夫だから! とりあえずテレビの黒のリモコンじゃなくて、銀色のリモコン探して!」
「はい、はい、ちょっと待ってね、あ~あった、リモコンあったよ」
まずは電源を入れてもらう必要があった。
「上の方に丸い赤のボタンと長細い赤のボタンがあるやろ? 長細い方のボタンをテレビの下の機械に向けて、押して!」
「はい、押しました」
「そしたら、電気が点いたろ?」
「点いとるよ」
「次は、1チャン押して!」
ばあちゃんはテレビは大好きだからチャンネルはわかるのだ。
ここまでは順調だったが、難しいのはこの後だった。
昨日の夜、某ロボットアニメのDVDを見てそのディスクを入れたままにしていたので、DVDには録画できないのだ。今回はハードディスクに録画してもらわないといけない。
だが、私はレコーダーが起動した時に、DVDとハードディスクのどちらに録画される状態になっているか覚えていなかった。
ばあちゃんにどちらに録画されているのか、確認してもらわないといけない。
勝算はあった。DVDモードの時は緑のランプ、ハードディスクモードの時は青のランプが点くのを私は覚えていたのだ。電源ランプの色も青。その横にモード毎のランプが表示されるはずだ。
まずは、
「リモコンの真ん中に丸いやつがあって、その周りにボタンがいっぱい丸く並んでるやろ? その中に、白くて英語が書いてあるボタンがふたつあるやろ?」
白いボタンには「DVD」と「HDD」と書かれているのだが……
「あるよ。でも、英語読めんばい」
「大丈夫! じゃあ左のボタン押してみて! 機械見たら、青か緑の電気が点いとうと思うけど、青ふたつ並んでる?」
「うん。青いとがふたつ点いとう」
勝った。
「一番下に白いボタンの中に赤丸が点いとるやつがあるやろ? それ、今すぐ押して!」
「はい、押しました」
「ありがとう! もういいよ! 助かったぁ!」
「は~い、じゃあね~」とばあちゃん。
私は勝ったのだ。英語が読めないばあちゃんだってちゃんと順番に教えてあげれば録画できるのだ。次からも録画予約を忘れたときは、ばあちゃんに電話して録画してもらおう。
私はルンルン気分で、帰路に着いた。
家に帰り、レコーダーを覗き込んだ。点いてるのは緑のランプだった。録画はできていなかったのだ。
どこに問題があったのだろうか? 録画する状態にはなっているし、間違えたとしたら「DVD」と「HDD」の選択の部分しかないはずである。でもばあちゃんは青いランプがふたつ点いたと言ってたよな?
私はばあちゃんに聞いてみた。
「ばあちゃん、この電気見た?」
「見たよ。あんたが青いのが点いたか聞いたろうが」
でも、点いてるの緑だよな、と思った瞬間に私は閃いた。
「そう。これ、何色?」私はまず電源ランプ(青)を指差した。
「あお」
「そう。じゃあこれは?」次に私はDVDモードのランプ(緑)を指差した。
「あお」
私は忘れていたのだ。この年代の人は青も緑も「あお」と表現することを。
ばあちゃんは心配そうに「ちゃんと、出来とらんかったんちゃろ?」と言った。
ばあちゃんは悪くないのだ。ばあちゃんは頑張ってくれた。
私は「ばあちゃん、ありがとう。大丈夫だよ」と言った。
「プログラミング的思考」は「コンピューター」や「プログラミング」のためだけの考え方ではない。人と協力し、何かを成し遂げるときにも役立つ考え方である。
「プログラミング的思考」が一般的になった社会は、人の失敗に大して寛容で人々がお互いに尊重し合える社会になっているだろう。なぜなら人々の間でどこに齟齬が生じていて、どうすれば解決できるかを考えれる社会になっているからである。
「プログラミング的思考」は機械的な冷たい印象すら感じる言葉であるが、とても暖かい未来に繋がる考え方である。
〈終わり〉
最後に
『ばあちゃんプログラミング大作戦』いかがだったでしょうか?
実はこの話、僕の奥さんが経験した実話が元になっています。話の中でわざわざ「私の奥さんが経験した話で……」と書くのも野暮ったいかなと思い、自分が経験した風にして書きました。
録画してもらおうとしたのも「某国民的アニメの特番」ではなく、「ジャニーズの特番」が本当です。そう、実はうちの奥さんはジャニオタなのです。
多少のフィクションはありますが、話した内容やオチは実際にあったことです。
「プログラミング的思考」が本当の意味でちゃんと世の中に普及していってくれたらいいなと感じています。
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